獅子文六『コーヒーと恋愛』(ちくま文庫)

たまには小説が読みたいなと思っているところ、書店でふと目にとまってなんとなく購入した一冊です。

タイトルから、ほの苦い恋愛小説かな?と想像しがちですが、
いわゆる切ない系の恋愛小説とは趣が異なります。わりと現実的な展開が多いです。

主人公は脇役として売れている中年女性の俳優、モエ子。
新劇に情熱を抱き続ける年若のパートナーと結婚生活を送っていたところ、
パートナーよりも10歳以上も年下の若い女の子からのアプローチによって、
生活がいっぺんする・・・

登場人物同士を縁をつなぎとめているのは、コーヒーという共通の嗜好。

ラストの展開はちょっと意外なものでした。

コーヒーと恋愛 (ちくま文庫)

コーヒーと恋愛 (ちくま文庫)

  • 作者:獅子 文六
  • 発売日: 2013/04/10
  • メディア: 文庫
 

久しぶりに大衆小説を読んだなぁという印象でした。

また、昭和のいきいきした、希望が残っている時代の空気と、
演劇・テレビといった芸能で生活している人々の生々しい生活が
巧みに描かれている印象を受けました。
作者自身の経験や、直接に見聞きした要素が小説として結実した感じでしょうか。

主人公は女性ですが、女性心理を衝く、までの描きこみはなかったかなと思います。

ともあれ、女性として、強く生きていこうとする主人公にはかなり共感できますし、
元気ももらえました。

ちょっとした骨休めに最適の一冊。